テセウスの船が乗せたもの

 

 
Aqoursは3年生が卒業しても解散しなかった。
新しい学校に行ってもAqoursは続けていく。
「それがみんなの答えなんだもん」
 
μ'sは3年生の卒業と同時期に解散した。
それがメンバーひとりひとりの答え。
「一人でも欠けたらμ'sじゃない」
 
3年生卒業に対する、μ'sとAqoursの違いはどこから生じたのでしょうか?
 

テセウスの船

テセウスの船はパラドックスの1つ。ある物体の構成要素が全て置き換えられたとき、もとの船と同じであると言えるのか、という問題です。

このパラドックスAqoursに置き換えてみると以下の命題が生じます。

 

Aqoursのメンバーが全員入れ替わった時、それはAqoursと言えるのか」

この命題に対するアプローチの一つとして、事象の原因を4つに分ける四原因説があります。

四原因説

四原因説とは、古代ギリシャの哲学者アリストテレスが提唱した、ものごとが存在する原因を以下の四種類に分類するという言説です。
質料因:物質的な材料(what、物理)
形相因:何であるかという本質。(what、論理)
作用因:変化の原因、形相を作る原因(why、過去)
目的因:存在、変化する目的(why、未来)

全部説明するとそれだけで別の記事になりそうなので、ここでは分析手法の一つとして参照するのみにとどめます。気になる方は是非調べてみてください。

この四原因説をテセウスの船に当てはめると、
質料因:木材
形相因:船としての機能
作用因:大工による製造
目的因:水の上を移動するため
となり、質料因が変わっても、本質であるところの形相因は変わりません。
質料因の観点では別の船、形相因の観点では同じ船、となります

さて、この四原因説を今度はμ'sとAqoursに当てはめてみます。
質料因:メンバー9人
形相因:μ'sAqours(という概念)
作用因:スクールアイドル活動
目的因:廃校阻止(μ's)輝きの追求(Aqours

μ'sは質料因を重視し、Aqoursは形相因を重視したからこそ、3年生卒業に対する結論が異なったといえます。

μ'sは質料因=形相因という考え方に近かったのでしょう。

9人の女神の名前は、まさにμ'sの本質そのものです。あの9人がアイデンティティだった。
「μ'sはこの9人」
「誰かが欠けるなんて考えられない」
μ'sには3年生の卒業という終わりがあり、限られた時間の中を全力で駆け抜け、そして最後は何も残さなかった。心はつながっているからそれでいいんだよって。

一方で、Aqoursはもともと3年生の3人だけでした。

一度は解散し、2年生組3人が名前を受け継ぎ、3人が6人になり、6人が9人になり、そしてまた6人になった。想いよひとつになれでは梨子をピアノコンクールに送り出し、ミラチケでは浦の星の全校生徒でラブライブに参加しようとし、劇場版ではあの子のためのAqours加入を本気で検討しました。そしてこちら側の世界でもNo.10の存在を認めるほどにAqoursの概念は拡張されています。輝きを求めゼロから始まったキセキ。μ'sの背中を追いかけることをやめて自由に走った9人。

 

「千歌ちゃんにとって輝くということは、自分一人じゃなくて、誰かと手を取り合い、みんなで一緒に輝くことなんだよね!」


「私や曜ちゃんや、普通のみんなが集まって、一人じゃとても作れない、大きな輝きを作る。その輝きが、学校や、聞いてる人に広がっていく、つながっていく…それが、千歌ちゃんがやりたかったこと、スクールアイドルの中に見つけた、輝きなんだ!」

 

Aqours」は固有名詞としてだけじゃなく、不特定多数の10人目、その中に眠る普遍的な可能性、そこに生まれた繋がり、それらを色々ひっくるめたグループの名前になりつつあります。

「永遠」に込めたメッセージの違い

μ'sとAqoursの本質的な違いについてもうひとつ言及すると、μ'sとAqoursで歌われている「永遠」のニュアンスには微妙に違いがあります。

【μ's】μ'sic Forever
Aqours】Eternal friends

まずはforeverとeternalの違いについてですが、
forever:空間的に永遠。いつも存在している状態。
eternal:時間的に永遠。ずっと続く状態。
と使い分けができます。

音楽は物理的にはただの空気の振動ですが、歌うという作用因とそこに込められた想いの目的因があり、空気の振動がクオリアを通過して意味性を持った音楽として認識されます。

μ'sはすべてのスクールアイドルのための歌を作ろうとしました。いつでも音楽があるように、神話としての音楽を永遠に残しました。


一方で「Eternal friends」におけるFriendの本質は、物理的な存在ではなく、形而上の関係性の上での存在にあります。
Friendだけでなく、永遠って言葉が不思議と出てきた「Thank you, FRIENDS」における「Thank you」も物理の世界では成り立たず、目に見えない繋がりの上で成り立ちます。
アニメ本編でもAqoursは浦の星の名前を歴史に刻むことで学校を救おうとしました。一生消えない思い出を作ろうと。これもEternalの方の永遠です。グループの終わりではなく、学校の終わりと向き合った。

この「永遠」というメッセージの中には、9人の空間的繋がりを重んじたμ'sとそこに囚われなかったAqoursの違いがあらわれています。

船が運んだもの

グループを船に例えてしまったので、じゃあその船が乗せていたものって何だろうと考えてみました。
俺は何を受け取ったんだろうって。

μ'sは時間の大切さを運んだ船
Aqoursは気持ちの大切さを運んだ船

なのかなって。
ラブライブから受けっとたものは人それぞれですけどね。